海外赴任者の一時帰国旅費とは

海外赴任者(駐在員)が任地から日本に一時的に帰国する場合の旅費(航空券・交通費等)を「一時帰国旅費」と呼びます。これは通常の国内出張旅費とは異なり、海外と日本間の高額な航空運賃が伴う特殊な旅費です。

一時帰国の頻度は企業によって異なりますが、一般的には年1〜2回程度が多く、近年ではコロナ禍後の渡航再開に伴い、以前より帰国頻度が増加している傾向もあります。

一時帰国旅費の税務上の取り扱いは、帰国の目的と旅費規程の整備状況によって大きく異なります。適切に処理すれば会社の損金(法人税)かつ社員の非課税所得となりますが、処理を誤ると社員への給与課税が生じるリスクがあります。

なお、ここで解説する内容は国内法人が国内在住の日本人社員を海外赴任させるケースを主に想定しています。外国人社員の本国帰国旅費や、海外法人が費用負担する場合は別途の検討が必要です。

一時帰国旅費が非課税になる条件

所得税法第9条第1項第4号および所得税基本通達9-3の規定により、「旅行について通常必要と認められる旅費」は非課税とされています。海外赴任者の一時帰国旅費についても、この規定が適用されますが、次の条件を満たすことが重要です。

  • 業務上の必要性:帰国が業務遂行上の必要性(本社での会議・研修・健康診断等)に基づくものであること
  • 旅費規程への明記:一時帰国旅費の支給基準が旅費規程に定められていること
  • 合理的な金額:航空クラスや経路が業務上の慣行として合理的であること
  • 証跡の保管:帰国目的・航空券・宿泊費等の記録が保管されていること

これらの条件を満たした一時帰国旅費は、会社の損金算入が認められ、社員の給与課税も生じません。一方、私的目的(観光・家族への面会のみ等)の帰国旅費を会社が負担した場合は、給与として所得税・住民税の課税対象になります。

帰国理由別の旅費扱いの違い

一時帰国の理由によって、旅費の税務処理が異なります。以下に代表的なケースを整理します。

帰国理由 業務上の必要性 旅費の税務処理 必要な証跡
本社での業務会議・打合せ 高い(明確) 全額非課税・損金 会議議事録・出席記録
定期研修・スキル研修への参加 高い 全額非課税・損金 研修プログラム・受講証
法定健康診断・人間ドック 中〜高い(会社が受診を義務付ける場合) 非課税・損金(旅費規程に明記が条件) 健診予約・受診証明
赴任前後の帰国(赴任・帰任旅費) 高い(赴任命令に附帯) 全額非課税・損金 赴任命令書
慶弔(本人の婚礼・近親者の葬儀等) 低い〜中程度 慶弔見舞金規程に基づく場合は非課税の余地あり。旅費として処理する場合は給与課税リスクあり 慶弔事実を示す書類
私的目的(帰省・観光) なし 給与として課税 (給与として処理)
業務と私用が混在する帰国 部分的 業務目的部分のみ非課税・損金。按分が必要 業務部分の証跡+按分計算

慶弔帰国の旅費は税務上グレーゾーンです。「近親者の葬儀のための緊急帰国旅費」を会社が負担するケースは実務上多くありますが、厳密には所得税基本通達上の「通常必要な旅費」に該当しないとの解釈もあります。慶弔見舞金として処理するか、旅費規程に慶弔帰国の扱いを明確に定めておくことが推奨されます。

家族の一時帰国費用の会社負担の可否

海外赴任者が家族を帯同している場合、家族の一時帰国費用を会社が負担することがあります。この扱いは、本人の旅費より慎重な判断が必要です。

原則として、家族の帰国費用は「社員本人の業務上の旅費」ではなく、社員への給与(現物給与)として取り扱われます。したがって、会社が家族の帰国航空券を負担した場合、その金額は社員の給与所得として所得税・住民税の課税対象となります。

ただし、次のような考え方・規程整備により、実質的な費用負担を行っている会社も多く存在します。

対応方法 税務上の扱い メリット・デメリット
家族帰国費用を旅費として支給(旅費規程に規定) 給与課税が生じるリスクあり(原則は給与扱い) 会社の損金は認められるが、社員に課税が生じる可能性
家族帰国費用を海外赴任手当に含めて支給 手当として課税 明確に給与として処理されるが、会社・社員双方に課税コストが生じる
会社が社員に帰国費用相当の特別一時金を支給 給与として課税 透明性が高いが課税コストを伴う
会社負担なし(社員が私費で帰国) 課税問題なし 採用・定着面でデメリット。家族帯同型赴任が困難になる場合も

家族の帰国費用については、赴任規程または旅費規程に「帯同家族の一時帰国費用」として明記し、給与課税を前提とした上で費用負担のルールを定めるのが実務的に最も安全なアプローチです。なお、子女教育費(現地の学費等)と同様に、家族帰国費用を一定額まで非課税処理している事例もありますが、国税庁の見解が明確でないため、顧問税理士への確認を強くお勧めします。

海外赴任手当と旅費日当の関係

海外赴任中の社員には、様々な名目の手当が支給されます。これらと一時帰国旅費の関係を整理します。

手当・費用の種類 税務上の性質 損金・非課税の扱い
海外赴任手当(ハードシップ手当・地域手当) 給与・賞与に準ずる 給与として課税。損金算入は可
海外出張日当(任地内移動等) 旅費 旅費規程に基づく合理的金額であれば非課税・損金
一時帰国旅費(本人分) 旅費 業務目的・旅費規程の整備があれば非課税・損金
現地住居費(会社借り上げ) 現物給与(一部非課税の規定あり) 一定額まで非課税。超過分は給与課税
子女教育費補助 給与に準ずる 原則として給与課税

海外赴任手当(ハードシップ手当)は給与課税される一方、一時帰国旅費は旅費規程の整備により非課税処理が可能です。したがって、一時帰国の費用を「手当」に含めて支給するよりも、「旅費規程に基づく一時帰国旅費」として支給する方が、社員の手取りが増えると同時に会社側の社会保険料節減にもつながります。

旅費規程への「海外赴任者の一時帰国条項」記載例

以下に、旅費規程に追加する「海外赴任者の一時帰国条項」の条文例を示します。

【条文例】第○条(海外赴任者の一時帰国旅費)

1. 海外に赴任している役員・社員(以下「在外社員」という)が、次の各号に掲げる目的のため一時帰国する場合、会社は本条の規定に基づき帰国旅費を支給する。

(1)本社または国内関係会社での業務上の会議・打合せへの出席

(2)会社が受講を命ずる研修・教育訓練への参加

(3)会社が受診を義務付ける健康診断・人間ドック

(4)前各号のほか、会社が業務上必要と認める事由による帰国

2. 前項の帰国旅費として支給する費用の範囲は次のとおりとする。

(1)現地発着の国際航空運賃(エコノミークラスを原則とし、飛行時間が8時間を超える場合はビジネスクラスを認める)

(2)現地空港から任地住居間の交通費(実費)

(3)国内での業務遂行に必要な交通費・宿泊費(本規程の国内出張旅費規定を準用)

3. 第1項の一時帰国旅費の支給は、在外社員1名につき年間○回を限度とする。ただし、業務上の緊急事由による帰国については、この限りでない。

4. 在外社員は、帰国前に所属長の承認を受け、帰国後に帰国報告書(業務内容・期間・要した費用の明細)を提出するものとする。

条文のポイントは、帰国目的を列挙型で明記し、「業務目的の一時帰国」に限定していることです。また、航空クラスについて飛行時間による客観的な基準(8時間超でビジネスクラス可等)を設けることで、恣意的な高額クラス利用を防ぎながら長距離路線での合理的処遇を実現します。

在外子会社・現地法人への出向者の旅費処理

国内法人から海外の子会社・現地法人に出向する場合、旅費の処理は出向元(国内法人)と出向先(現地法人)のどちらが負担するかによって異なります。

一般的には、出向者の人件費(給与・手当)は出向元が負担し、業務上必要な旅費は出向先(現地法人)が負担するケースが多いです。ただし、会社間の出向協定・費用負担協定の内容によって異なります。

一時帰国旅費については、次の点に注意が必要です。

  • 出向元の国内法人が負担する場合:出向元の損金として処理できるが、出向先との費用負担協定との整合性を確認する
  • 出向先の現地法人が負担する場合:現地の税法・旅費規程に従って処理する(日本の旅費規程は直接適用されない)
  • 一時帰国が本社業務のためであれば出向元負担、出向先業務の研修等のためであれば出向先負担とするのが合理的

出向協定書に「一時帰国旅費の負担区分」を明記しておくことで、後からの費用負担争いを防ぐことができます。