1. 旧来の旅費規程がテレワーク時代に抱える問題
テレワークが定着した2026年現在、多くの企業が旧来の旅費規程を改定しないまま運用を続けています。しかしテレワーク時代の働き方は、旧来の旅費規程が前提としていた「会社を起点に出社・外出する」という働き方と根本的に異なります。この齟齬が、様々な実務上の問題を引き起こしています。
問題① 「勤務地」の定義が合わない
旧来の旅費規程では、「勤務地」=「会社の事務所」が当然の前提でした。しかしテレワーク導入後は、「自宅」「サテライトオフィス」「コワーキングスペース」など、複数の場所が「勤務地」となりえます。旅費規程に「勤務地は○○事務所とする」と書かれていると、在宅勤務者が出張した際の旅費の起点が不明確になります。
具体的には「在宅勤務の日に自宅から直接客先へ向かった場合、旅費の起点はどこか」という問いに旧来の規程では答えられません。これが税務調査で指摘されるリスクを生みます。
問題② 「出張」と「通勤」の境界が曖昧
旧来の旅費規程では「会社から離れた場所での業務=出張」という単純な構造でした。しかしテレワークでは、社員が毎日違う場所から業務を行うため、「出張」と「通勤」の境界が曖昧になります。旅費規程にこの境界を定義する条文がなければ、経理担当者も社員も判断に迷います。
問題③ オンライン会議の普及による「出張の必要性」の問い直し
Zoom・Teams・Meetなどのオンライン会議ツールが普及した現在、「オンラインで済む会議のために交通費と日当を支給してよいか」という問題が生じています。旧来の旅費規程にはオンライン会議という概念がないため、対面出張の判断基準が不明確なままです。税務調査で「この出張はオンラインで済んだのではないか」と指摘されるリスクがあります。
問題④ サテライトオフィス・コワーキングスペースの扱い
会社が契約しているサテライトオフィスやコワーキングスペースを利用する場合、そこへの移動は「通勤」なのか「出張」なのかが旧来の規程では不明確です。また、社員が自主的に近所のカフェで作業した場合の交通費は会社が負担するのかという問題も生じます。
旅費規程を改定しないまま在宅勤務者に日当・旅費を支給し続けると、税務調査で「規程の根拠がない支出」として否認され、遡及して源泉所得税の追徴課税を受けるリスクがあります。また、社員間の処理が不統一になり、不公平感やトラブルの原因にもなります。
2. 見直しポイント①:出張起点の定義
テレワーク対応の旅費規程改定において、最初に取り組むべきが「出張起点の定義」の見直しです。出張起点とは、旅費(交通費・日当)の計算を開始する基準となる場所のことです。
現行規程の典型的な記載と問題点
多くの旧来の旅費規程には、「出張とは、業務の必要により会社(事務所)を離れ、他の場所で業務を行うことをいう」という趣旨の定義があります。この定義では、テレワーク勤務者の出張起点が常に「会社」となり、自宅から直行した場合の扱いが不明確です。
テレワーク対応の出張起点定義
改定後の旅費規程では、出張起点を「当日の勤務形態に応じた通常の業務開始場所」と定義し直すことを推奨します。具体的には以下の3パターンを明記します。
| 当日の勤務形態 | 出張起点 | 交通費の計算基準 |
|---|---|---|
| 出社勤務日 | 会社事務所 | 会社→出張先の実費 |
| 在宅勤務日(直行) | 自宅 | 自宅→出張先 と 会社→出張先 のいずれか低い方 |
| 在宅勤務日(会社経由) | 会社事務所 | 会社→出張先の実費(自宅→会社は通勤費) |
| サテライトオフィス勤務日 | サテライトオフィス | サテライト→出張先 と 会社→出張先 のいずれか低い方 |
「いずれか低い方」とする規定は、在宅勤務者が遠方に住んでいる場合に会社を介さず直行することで交通費が増大するのを防ぐための上限設定です。合理的な規程内容として税務上も認められやすいアプローチです。
3. 見直しポイント②:在宅勤務者の交通費の取扱い
テレワーク導入後に最も混乱が生じやすいのが「在宅勤務者の交通費」の取扱いです。在宅勤務者が業務上外出した場合の交通費について、旅費規程に明確なルールを定める必要があります。
在宅勤務日の外出パターンと交通費の扱い
| 外出パターン | 交通費の性格 | 日当の可否 | 必要書類 |
|---|---|---|---|
| 単発の客先訪問(月1〜2回) | 出張交通費 | 可(規程要) | 出張申請書・領収書・訪問記録 |
| 同一客先への反復訪問(週3日以上) | 通勤費 | 不可 | 通勤費申請書 |
| 会社指定のサテライトオフィスへの移動 | 通勤費 | 不可(別途規程による) | サテライト利用申請 |
| 遠方(他府県等)への宿泊出張 | 出張旅費 | 可 | 出張申請書・宿泊領収書・交通費領収書 |
定期券との関係の整理
テレワーク導入後、通勤定期券の支給方法を見直す企業が増えています。月額定額の定期券代を廃止し、出社日分の実費を精算する方式(「回数券方式」や「ICカード実費払い」など)に切り替えた場合、旅費規程も連動して整備する必要があります。定期券がない場合、在宅勤務日の出張交通費の計算方法も変わってきます。
- 定期券廃止後は、在宅勤務日の出張交通費は「自宅から出張先の全区間実費」を支給する
- ICカード記録を交通費精算の根拠書類として認める旨を規程に明記する
- 月間の交通費上限額(例:従来の定期代相当額)を設けることで恣意的な増額を防止する
4. 見直しポイント③:オンライン会議 vs 対面出張の判断基準
テレワーク時代の旅費規程で新たに問題となるのが「オンラインで済む会議のために出張旅費を支給してよいか」という問題です。税務上は「業務上の必要性」が旅費支給の要件ですが、オンラインでも対応できる会議への出張は「必要性があるのか」と問われるリスクがあります。
対面出張が正当化される場面
旅費規程に「対面出張が認められる場合」を明記することで、税務上の根拠を作ることができます。以下のような場面を規程に列挙することを推奨します。
- 重要な契約の締結・更新に関する交渉・署名
- 顧客先からの対面対応の明示的な要請がある場合
- 現場・工場・施設等の現地確認が業務上不可欠な場合
- 新規顧客・新規プロジェクトの開始に当たっての初回訪問
- 機密性の高い情報を扱うため、オンライン会議が不適切な場合
- 技術的な問題によりオンライン開催が困難な場合
- その他、所管上長が業務上の必要性を認めた場合
この規程がある場合、出張申請書に「対面が必要な理由」として上記のいずれかを記載することで、税務調査に対する根拠が明確になります。
オンライン会議を優先すべき場合の明記
逆に、「以下の場合はオンライン会議を優先し、対面出張を原則として認めない」という規定を設けることも有効です。これにより、コスト管理と税務リスク管理の両方を実現できます。
「以下に該当する場合は、原則としてオンライン会議等による対応を優先し、対面出張の申請は上長の特別承認を要する。」
- 移動時間が片道2時間未満かつ交通費が5,000円未満の場合
- 会議の目的が情報共有・報告のみの場合
- 同一の訪問先への訪問が月3回以上の場合
5. 追加すべき条文のサンプル
上記3つのポイントをカバーする条文のサンプルを示します。これらを既存の旅費規程に「テレワーク勤務者に関する特例」として章立てして追加することを推奨します。
第○条(定義)
本章において「テレワーク勤務者」とは、会社が承認したテレワーク(在宅勤務・サテライトオフィス勤務を含む)に従事する役員・従業員をいう。
第○条(テレワーク勤務者の出張起点)
テレワーク勤務者が業務の必要により出張する場合の旅費起点は、当該出張日の勤務形態に応じて次のとおりとする。
一 出社勤務日:会社事務所
二 在宅勤務日(自宅から直行する場合):自宅。ただし、交通費は自宅から出張先の実費と会社から出張先の実費のいずれか低い額を上限とする。
三 在宅勤務日(会社経由の場合):会社事務所(自宅から会社までは通勤費として処理)
四 サテライトオフィス勤務日:当該サテライトオフィス
第○条(テレワーク勤務者の交通費)
テレワーク勤務者が在宅勤務日に業務目的で外出した場合の交通費は、当該外出が次の各号のいずれかに該当するときに限り、出張交通費として支給する。
一 単発または不定期の客先訪問(同一訪問先への継続訪問が週2日以下)
二 遠方(片道50km以上)への業務移動
三 その他、上長が業務上の必要性を認めた外出
第○条(対面出張の承認基準)
テレワーク環境が整備されている現在においても、次の各号のいずれかに該当する場合は対面出張として承認する。
一 重要な契約の締結・更新に係る交渉・署名
二 顧客から対面対応の明示的な要請がある場合
三 現地確認・視察が業務上不可欠な場合
四 初回訪問等、関係構築のために対面が相当な場合
五 その他、所管上長が業務上の必要性を認めた場合
6. 改定手順:取締役決議→文書化→周知
旅費規程を改定する際は、適切な手続きを踏むことが重要です。手続きを省略すると、改定後の規程が「有効に成立していない」と判断されるリスクがあります。
ステップ1:改定案の作成
現行の旅費規程を確認し、テレワーク対応のために追加・変更が必要な箇所を整理します。税理士に相談しながら進めることを強く推奨します。改定案は「新旧対照表」形式で作成すると、変更箇所が明確になります。
ステップ2:取締役会・社員総会での決議
株式会社の場合、取締役会(取締役会非設置会社は取締役の過半数)での決議が必要です。合同会社の場合は社員全員の同意(または定款所定の手続き)が必要です。一人会社の場合も「取締役会議事録」または「取締役決定書」として書面に残すことが重要です。
| 会社形態 | 必要な意思決定 | 書類 |
|---|---|---|
| 株式会社(取締役会設置) | 取締役会決議 | 取締役会議事録 |
| 株式会社(取締役会非設置) | 取締役の過半数の決定 | 取締役決定書 |
| 合同会社 | 業務執行社員全員の同意または定款による | 社員決定書・同意書 |
| 一人会社(いずれの形態も) | 代表者の決定 | 取締役決定書・代表社員決定書 |
ステップ3:文書化・保存
改定後の旅費規程は「施行日」を明記のうえ文書化します。改定前の旧規程も廃棄せず、施行日とともに保管します。規程番号・版数・改定履歴を記録することで、いつどのように改定されたかを明確にできます。
ステップ4:周知
改定した旅費規程を全役員・全従業員に周知します。メール・社内システムへの掲載・説明会の開催など、周知の方法を記録しておくと税務調査時に有効です。従業員が新しい規程を確認した旨のサイン(電子署名でも可)を取得しておくと、規程の有効性をより強固に主張できます。
7. 改定時の注意点:過去の出張精算との整合性
旅費規程を改定する際に見落としがちなのが、「改定前の出張精算との整合性」の問題です。
遡及適用はできない原則
旅費規程の改定は原則として施行日以降の出張に対して適用されます。改定前の期間に行われた出張を、改定後の規程で遡及して処理することはできません。税務調査で「当時の規程ではこの旅費支給は認められない」と指摘されるリスクがあるため、改定後の新規程は明確な施行日から適用してください。
施行日前後の処理の切り替え
施行日をまたいで行われる出張(例:施行日前に申請し、施行日後に実施した出張)については、どちらの規程を適用するかを事前に定めておきましょう。一般的には「出発日の規程を適用する」とすることが多いです。
改定前の処理が問題になる場合の対応
改定前の期間に、テレワーク対応規程がない状態で在宅勤務者に日当・旅費を支給していた場合、その処理が税務調査で問題になる可能性があります。この場合の対応については税理士と相談し、必要に応じて修正申告等の手続きを検討してください。
旅費規程の改定を急ぐあまり、「今日から適用」と口頭で決め、書類化を後回しにするケースがあります。しかし書類(議事録・規程文書)が施行日前に作成されていなければ、税務調査で「後付けの規程」と判断されるリスクがあります。必ず施行日前に書類を完成させてください。
8. TAXAVEで旅費規程の改定・管理を効率化
TAXAVEでは、テレワーク対応の旅費規程テンプレートを提供しています。上記のサンプル条文を含む完全版テンプレートをベースに、自社の状況に合わせてカスタマイズするだけで、税務上有効な旅費規程が作成できます。さらに、改定後の旅費規程に基づく申請・承認・精算フローをシステム化でき、月額4,500円で一人会社から小規模法人まで対応しています。
無料で始める(14日間トライアル)9. よくある質問
10. まとめ
テレワーク導入後の旅費規程見直しは、多くの企業が後回しにしがちな重要課題です。しかし放置すると税務リスクと社内の不公平感が蓄積します。今すぐ着手することが最善の対策です。
- 旧来の旅費規程は「勤務地=会社」を前提としており、テレワーク時代の多様な勤務場所に対応できていない
- 見直しポイントは①出張起点の定義、②在宅勤務者の交通費の取扱い、③オンライン会議vs対面出張の判断基準の3点
- 「テレワーク勤務者の旅費に関する特例」として章立てして追加条文を設けることが最も実務的なアプローチ
- 改定手順は「取締役決議(書面化)→規程文書化(施行日明記)→周知」の順で、施行日前に書類を完成させることが必須
- 改定前の期間の処理との整合性に注意し、遡及適用は行わない
- 旅費規程の改定後は、TAXAVEのようなクラウドツールで申請・精算フローをシステム化することで運用負担を最小化できる