日当が非課税になる理由——所得税法の根拠
出張日当が所得税の課税対象にならない根拠は、所得税法第9条第1項第4号にあります。同号は「給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するために旅行をし、かつ、その旅行について、その者の使用者等から支給される金品」のうち、政令で定める範囲内のものは非課税と規定しています。
これを受けて所得税基本通達9-3は、「旅費として支給される金品のうち、その旅行について通常必要と認められるもの」は所得税を課さないと明確に示しています。つまり「出張に際して通常必要な費用の実費補填的な性格を持つ支給」であれば、定額の日当であっても課税されません。
「定額支給なのに実費補填?」と疑問に思うかもしれませんが、税務の世界では「一定の基準に照らして社会通念上相当な金額」であれば、領収書なしの定額日当も非課税扱いとされています。この「社会通念上相当」という要件が、後述する過大日当リスクの核心です。
住民税における日当の扱い
住民税(都道府県民税+市区町村民税)は、前年の所得を課税標準として翌年に課税される仕組みです。課税標準となる「所得」は所得税の計算とほぼ連動するため、所得税で非課税とされた日当は住民税の課税標準にも算入されません。
具体的には、日当は会社が支払う「旅費」として損金処理され、受け取った役員・従業員の「収入」にはカウントされません。したがって年末調整・確定申告の源泉徴収票にも日当は記載されず、住民税の算定基礎となる所得金額に影響しません。
住民税率は所得に対して一律10%(標準税率)です。課税標準が下がればそのまま住民税額が下がるため、日当によって役員報酬を抑えると、翌年の住民税負担も軽減されます。
社会保険料への影響
日当(旅費)は社会保険料の算定基礎となる「標準報酬月額」の計算対象外です。健康保険・厚生年金保険の保険料は「報酬」を基に算定されますが、旅費・交通費は原則として報酬に含まれません(健康保険法第3条第5項)。
役員報酬を下げて日当を増やした場合、標準報酬月額が下がり、会社・本人双方の社会保険料負担が軽減されます。これは日当活用の重要なメリットの一つです。ただし標準報酬月額が下がると将来受け取る厚生年金の給付額も減少するため、長期的な視点でのバランスが必要です。
手取り比較の計算例:報酬50万円 vs 40万円+日当10万円
一人社長(役員)が月20日出張し、日当を月10万円(1日5,000円)受け取るケースで試算します。
| 項目 | パターンA 報酬50万円のみ |
パターンB 報酬40万円+日当10万円 |
|---|---|---|
| 月額役員報酬 | 500,000円 | 400,000円 |
| 日当(月額) | 0円 | 100,000円 |
| 標準報酬月額(目安) | 500,000円 | 400,000円 |
| 健康保険料(本人負担、約9.98%/2) | 約24,950円 | 約19,960円 |
| 厚生年金保険料(本人負担、18.3%/2) | 約45,750円 | 約36,600円 |
| 給与所得控除後の課税所得(年換算・概算) | 約260万円 | 約190万円 |
| 所得税・住民税(年額概算) | 約35万円 | 約22万円 |
| 手取り(月額換算) | 約40.2万円 | 約42.5万円 |
上記はあくまで概算ですが、月額報酬を10万円下げて同額の日当を受け取ると、手取りが月2万円以上増加する計算になります。年間では約25万円以上の差が出る可能性があります。これは日当に対して所得税・住民税・社会保険料がかからないためです。
日当活用の実際のメリット
日当を活用することで生じる主なメリットを整理します。
- 個人の所得税・住民税の軽減:課税標準が下がるため両方の税負担が減少する
- 社会保険料の軽減:会社・個人双方の負担が軽くなる(ただし将来の年金受給額も減少)
- 法人の損金算入:会社側では日当全額を損金(費用)として計上でき、法人税の課税所得が減少する
- 消費税の仕入税額控除:帳簿への記載要件を満たせば、日当を課税仕入れとして仕入税額控除の対象にできる(詳細は別記事参照)
特に一人会社・小規模法人では、出張が多い月に日当を活用することで年間の税コストを大幅に圧縮できるケースがあります。
過大日当と判定されるリスクと防止策
日当の非課税が認められるのは「社会通念上相当な金額」の範囲内に限られます。税務調査で「過大日当」と認定されると、超過部分が役員賞与として損金否認・源泉所得税の追徴が生じます。
| リスク要因 | 防止策 |
|---|---|
| 日当額が同業他社と比べて著しく高い | 国税庁の標準的な基準(役員1万円/日、社員5,000円/日程度)を参考にする |
| 旅費規程が存在しない、または形式的 | 出張先・役職・距離に応じた合理的な旅費規程を整備する |
| 出張の実態が確認できない | 出張申請書・移動記録・訪問先との連絡記録を保管する |
| 出張日数が不自然に多い | カレンダー・ICカード履歴など客観的証拠と整合させる |
「役員報酬を大幅に下げて日当を増やす」という手法は、税務当局も把握している節税策です。日当額が常識的な範囲を大きく超えると「実質的な給与の分割」とみなされるリスクがあるため、同業種・同規模企業の水準を意識した旅費規程の設計が不可欠です。
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