日当の非課税については、所得税法9条1項4号に「給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし、もしくは転任に伴う転居のための旅行をした場合に、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるもの」は非課税と規定されています。

この「通常必要であると認められるもの」が、実務上の判断基準となる「社会通念上相当な金額」です。では、「社会通念上相当」とは具体的にどういう意味でしょうか。

国税庁の通達(所得税基本通達9-3)では、次の3点を考慮して判断するとされています。

  • その支給額が、その地域・その職務の内容その他の事情に照らし、社会通念上相当であるかどうか
  • 一般的な企業の旅費規程との比較において不合理に高額でないかどうか
  • 旅行の実態(距離・日数・目的)に照らした必要性があるかどうか

つまり、日当の適正額には法律上の明確な上限数値は設けられておらず、「社会一般の水準と照らし合わせて不合理に高くなければOK」という基準で判断されます。そのため、実務では「国家公務員の旅費基準」と「同業種・同規模の民間企業相場」の2つを参考に設定するのが最も安全です。

2. 国家公務員の日当基準(2026年版)

国家公務員の旅費は「国家公務員等の旅費に関する法律」(旅費法)で定められており、民間企業の日当設定の重要な参考指標です。2026年現在の主な日当額は以下の通りです。

職種・等級 国内旅行(宿泊)日当 国内旅行(日帰り)日当 備考
指定職(局長・事務次官相当) 5,800円 2,600円 国家公務員最高水準
行政職(一)6級以上(課長補佐以上) 3,800円 2,000円 管理職相当
行政職(一)5級以下(一般職員) 2,600円 1,600円 一般職員相当

国家公務員の日当は民間企業の水準より低い傾向がありますが、「社会通念上相当」の判断において「国家公務員基準の2〜3倍以内」が一般的に安全な範囲とされています。つまり、役員の宿泊日当として最大11,600円(指定職5,800円×2倍)程度までは無理なく説明できる水準です。

ただし、これはあくまで目安であり、業種・役職・会社規模によって合理的な範囲は異なります。自社の状況に合わせた判断が必要です。

3. 業種別の民間企業日当相場

業種によって出張の実態・必要経費が異なるため、日当相場も業種ごとに差があります。各種調査・業界統計をもとにした2026年の業種別相場を示します。

業種 管理職の宿泊日当(目安) 一般社員の宿泊日当(目安) 特徴
製造業・メーカー 4,000〜8,000円 3,000〜5,000円 国内工場・海外拠点への出張が多い
商社・卸売業 5,000〜10,000円 3,500〜6,000円 海外出張多く、日当水準高め
IT・システム 4,000〜8,000円 3,000〜5,000円 顧客先へのオンサイト対応が多い
建設・不動産 4,000〜7,000円 3,000〜5,000円 現場訪問・物件視察が定期的
金融・保険 5,000〜10,000円 3,500〜5,500円 顧客訪問・投資先調査で出張多い
医療・福祉 3,000〜6,000円 2,500〜4,000円 学会参加・視察出張が中心
飲食・小売 3,000〜5,000円 2,000〜3,500円 出張頻度が業種平均より低い
コンサルティング 5,000〜12,000円 4,000〜8,000円 クライアント先への頻繁な訪問

業種別の相場を見ると、商社・コンサルティング・金融で日当水準が高く、飲食・小売・医療で低い傾向があります。自社が属する業種の相場を参考に、「なぜその金額か」を説明できる水準で設定することが重要です。

4. 役職別の日当差異

日当は役職(職階)によって差をつけることが一般的です。役職が高いほど出張における業務の重要度・責任が高く、それに伴う諸費用も増加するという考え方に基づきます。

役職 宿泊日当(目安) 日帰り日当(目安) 国家公務員基準との比率目安
代表取締役・社長 5,000〜10,000円 3,000〜6,000円 指定職の1〜1.7倍
専務・常務取締役 5,000〜9,000円 3,000〜5,000円 指定職の0.9〜1.5倍
取締役・部長相当 4,000〜8,000円 2,500〜4,500円 指定職の0.7〜1.4倍
課長・マネージャー相当 3,500〜6,000円 2,000〜3,500円 6級以上の0.9〜1.6倍
一般社員・スタッフ 2,500〜5,000円 1,500〜3,000円 5級以下の0.9〜1.9倍

役職間の格差については、「最上位役職の日当が最下位社員の3倍を超えると説明が難しくなる」という実務上の目安があります。一般的には、役員の日当が一般社員の1.5〜2.5倍程度に収まっていれば合理的と判断されやすいです。

5. 会社規模別の日当相場

会社規模(従業員数・売上高)によっても日当相場は異なります。大企業ほど日当水準が高い傾向がありますが、一人社長・少人数会社でも適正な日当を設定することは可能です。

会社規模 役員・管理職の宿泊日当 一般社員の宿泊日当 主な傾向
1人(一人社長) 4,000〜8,000円 国家公務員基準を1〜1.5倍が安全
2〜5人 4,000〜7,000円 3,000〜5,000円 役員と社員の差は1.3〜2倍程度
6〜20人 4,500〜8,000円 3,000〜5,500円 業界平均に近い水準が多い
21〜50人 5,000〜9,000円 3,500〜6,000円 役職体系が整備され格差も明確
51人以上 5,500〜12,000円 3,500〜6,500円 大企業基準に準じた高水準

一人社長の場合、比較対象となる「同じ立場の社員」が存在しないため、役員日当の上限は「指定職公務員の1.5〜2倍程度」を目安にすると税務調査での説明がしやすいです。具体的には宿泊日当8,000〜10,000円前後が説明可能な上限とされることが多いです。

6. 地域別(都市部vs地方)の違い

出張先の地域によって必要経費は異なります。東京・大阪・名古屋などの大都市圏は物価が高く、地方都市は全般的に安価です。この差を反映させる方法は2種類あります。

方法1:出張先地域別に日当額を設定する

出張先地域 一般社員の宿泊日当(例) 根拠
東京・大阪・名古屋(3大都市圏) 4,500円 物価・交通費が高く、追加出費が発生しやすい
政令指定都市(福岡・札幌・仙台等) 4,000円 中規模都市として標準水準
その他の地方都市・農村部 3,500円 物価が比較的低い地域

方法2:一律の日当額を設定する(実務で最も多い)

地域別設定は管理が煩雑になるため、多くの中小企業では「全地域一律○円」で設定しています。この場合は、都市部・地方双方の実態を反映した「中間的な金額」を設定するのが合理的です。

7. 適正日当額の算出方法と設定例

自社の日当適正額を算出するための手順を示します。

ステップ1:国家公務員の相当職位の日当額を確認する

自社の役員・社員の役職を国家公務員の職位に対応させ、それぞれの国家公務員日当額を確認します。

ステップ2:同業種・同規模の民間企業相場を調査する

業界団体の調査・顧問税理士への相談・同業他社へのヒアリング等で相場を把握します。

ステップ3:自社の出張実態を把握する

実際の出張での必要経費(食事代・クリーニング代・雑費等)を試算します。日当は「実費精算では賄いきれない小額の出費の補填」という性格があるため、実際の必要額に近い設定が望ましいです。

ステップ4:最終的な日当額を決定し、根拠を記録する

上記3点を総合して日当額を決定し、「なぜこの金額にしたか」の根拠を旅費規程制定時の議事録に記録しておきます。

日当設定の具体例(ITベンチャー・5名・代表取締役+社員4名)

【参照した情報】
・国家公務員指定職の宿泊日当:5,800円
・同業種(IT)の一般社員相場:3,000〜5,000円

【設定した日当】
代表取締役:宿泊6,000円・日帰り4,000円(国家公務員指定職の1.03倍、同業種役員相場の中間値)
一般社員:宿泊4,000円・日帰り2,500円(国家公務員5級以下の1.54倍、同業種一般社員相場の中間値)

【根拠の記録】
・国家公務員の旅費基準(2026年版)を参照
・ITベンチャー業種における一般的な日当水準(3,000〜5,000円)を参考に設定
・役員と一般社員の差は1.5〜1.6倍とし、合理的な格差を設けた

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よくある質問

日当の上限はいくらまでですか?法律で決まっていますか?
日当の上限は法律で明確に定められていません。「社会通念上相当な金額」という基準のみが規定されています。実務的には、国家公務員指定職の宿泊日当(5,800円)の2〜3倍(11,600〜17,400円)程度が、一般的に「説明可能な上限水準」とされています。これを大幅に超える日当は、超過部分が役員報酬として認定されるリスクがあります。
日当を変更(引き上げ)する場合、税務上の問題はありますか?
日当の引き上げ自体は問題ありません。ただし、急激な引き上げ(例:年間で3倍増)は税務調査で「なぜ今期から急に増額したのか」と問われる可能性があります。引き上げの際は段階的に行うか、引き上げの理由(物価上昇・業務拡大・相場の見直し等)を取締役会議事録に記録しておくことを推奨します。
役員と社員で日当に差をつけないと問題がありますか?
役員と社員で全員同額の日当にしても、税務上は問題ありません。ただし、一般的には役員の方が高い日当を設定するケースが多く、「なぜ同額なのか」より「役職差がある根拠」の方が税務説明がしやすい傾向があります。また、役員のみ突出して高い日当を設定すると説明が必要になるため、社員との差は1.5〜3倍程度に収めることを推奨します。
海外出張の日当はいくらが適正ですか?
海外出張の日当は渡航先の物価水準によって大きく異なります。国家公務員の海外旅費基準では、地域・等級によって1,200〜5,800円(米ドル換算で約8〜38ドル)が設定されています。民間企業では、アジア・北米・欧州で段階的に差を設けるケースが多く、たとえばアジア圏8,000〜15,000円、欧米圏15,000〜25,000円というような設定が一般的です。
日当の適正額について顧問税理士と意見が分かれた場合、どうすればよいですか?
日当の適正額に絶対的な正解はないため、顧問税理士と見解が異なることがあります。その場合は、第三者の税理士・税務当局への事前照会(事前確認制度)を活用することも選択肢の一つです。TAXAVEでは業種・規模別の日当相場データを提供しており、顧問税理士との交渉に使用できる客観的なデータとしてご活用いただけます。

まとめ

日当の適正額についての要点をまとめます。

  • 日当の適正額は法律上の明確な数値基準はなく、「社会通念上相当な金額」という基準で判断される。
  • 国家公務員の日当基準(2026年:指定職5,800円、一般職2,600〜3,800円)が最も重要な参考指標。民間企業は国家公務員基準の1〜2倍程度が説明しやすい。
  • 業種別では商社・コンサル・金融で高く、飲食・小売・医療で低い傾向がある。自業種の相場を把握することが重要。
  • 役職別では最上位役員と一般社員の差は1.5〜3倍が合理的な範囲。過度な格差は説明が必要。
  • 会社規模が小さくても適正な日当設定は可能。一人社長は指定職基準の1〜1.5倍程度(宿泊6,000〜9,000円)が説明しやすい。
  • 日当設定の際は「なぜこの金額か」の根拠(国家公務員基準との比較・業種相場等)を議事録に記録しておく。