副業・兼業の普及と出張費問題の背景

政府の働き方改革推進や企業の副業解禁の流れを受け、複数の仕事を掛け持ちする会社員が急増しています。厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」改定(2022年)以降、大手企業でも副業を認める会社が増え、副業人口は数百万人規模と推計されています。

こうした状況で新たな実務問題として浮上しているのが、「出張費の重複」です。例えば、同じ地方都市への出張が本業・副業の両方の業務を兼ねている場合、どちらの会社(または自分の個人事業)から旅費を精算するかという問題です。

この問題を適切に処理しないと、次のリスクが生じます。

  • 二重受け取りのリスク:本業の会社と副業先の両方から同一出張の旅費を受け取ると、どちらかが「不当利得」または「不正請求」と判断されるリスクがある
  • 税務上の課税リスク:業務目的でない旅費精算分は給与所得として課税される可能性がある
  • 副業の個人事業分の過大経費計上リスク:本業の会社から受け取った旅費と重複して副業の経費として計上すると、二重計上となり税務調査で指摘される

これらのリスクを正しく理解した上で、適切な処理方法を選択することが重要です。

同一出張で本業・副業の両方から旅費を受け取れるか

結論から言えば、原則として同一の移動・宿泊費用を本業・副業の両方から二重に受け取ることはできません。旅費は実際に支出した費用の補填であり、同じ支出を2か所から補填されると、差額が利得(=課税対象の収入)となります。

ただし、それぞれの業務が独立して移動・宿泊を必要としている場合は、適切な按分により双方から受け取ることが可能です。

パターン 旅費の受け取り方 処理の考え方
同じ移動で本業・副業の業務を両方行う 按分して受け取る(例:業務時間比率で分割) 移動費・宿泊費を業務時間・目的の比率で按分し、各々から精算
本業出張のついでに副業の業務を行う(副業分は小) 原則として本業から全額精算 副業分の業務が付随的であれば、副業での旅費精算は不要(二重請求にあたる)
副業のための出張(本業は無関係) 副業から全額精算 個人事業なら事業経費として確定申告。別法人兼務なら当該法人から精算
本業と副業で別々の出張が同日に発生 各々全額精算 移動経路が異なれば別途精算。同じ移動を使う場合は按分が必要

按分の基準としては「業務時間の比率」が最も合理的です。例えば1泊2日の出張で、本業の打合せに8時間・副業の業務に4時間費やした場合、移動費・宿泊費を2:1(本業:副業)で按分します。この按分の根拠と計算過程を記録として残すことが重要です。

副業が個人事業(フリーランス)の場合の出張費処理

会社員が個人事業(フリーランス)として副業をしている場合、副業のための出張費は個人事業の「事業所得」または「雑所得」の経費として確定申告で控除できます。

処理のポイントは以下の通りです。

本業の会社から旅費が支給されない出張の場合

副業(個人事業)のための出張費として、交通費・宿泊費・日当(所得税法上の非課税日当規定は個人事業には適用されないため、実費のみ)を事業経費として計上できます。

本業・副業が混在する出張の場合

本業の会社から旅費を受け取っている場合、その金額を差し引いた部分のみを副業の経費とします。例えば交通費が30,000円で、本業から20,000円支給された場合、残りの10,000円が副業の経費となります(本業・副業が按分できる場合)。

出張費の種類 個人事業(副業)での経費算入 注意点
交通費(電車・新幹線・飛行機) 副業目的分を実費で計上 本業から受け取った旅費と重複しないよう注意
宿泊費 副業目的分を実費で計上 本業・副業兼用の場合は按分
日当(個人事業分) 原則計上不可 個人事業の日当は所得税法の非課税規定外。実費のみ経費算入可
食事代(出張中) 業務に直接関係する場合のみ 単なる昼食等は経費算入困難。接待・商談を伴う場合は交際費

注意点として、個人事業(副業)の「日当」は損金(経費)算入できません。日当の非課税・損金算入規定は法人格を持つ会社にのみ適用されるものであり、個人事業主が自分に日当を支払う形式での経費計上は認められません(実費の旅費のみ経費計上可)。

これは重要なポイントです。副業で法人(合同会社・株式会社等)を設立すれば、その法人の役員として日当を受け取ることができ、法人の損金にも算入できます。副業収入が一定規模を超えた場合に法人化を検討する理由の一つです。

副業が別法人の役員兼務の場合の旅費按分

A社(本業)の社員がB社(副業)の取締役を兼務しているケースでは、旅費の処理がさらに複雑になります。

B社から役員として旅費日当を受け取る場合、B社の旅費規程に従った適正な日当・旅費であれば、B社の損金となりB社役員(本人)は非課税で受け取れます。しかし、A社出張と同一の移動・宿泊を用いて両社から旅費を受け取る場合は、前述の二重計上問題が生じます。

複数法人兼務時の旅費按分の実務的アプローチを示します。

状況 A社(本業)の処理 B社(副業法人)の処理
A社のみの業務目的の出張 全額をA社から精算 B社は関与しない
B社のみの業務目的の出張 A社は関与しない 全額をB社から精算
A社・B社両方の業務目的が混在する出張 A社業務の時間比率分をA社から精算 B社業務の時間比率分をB社から精算

按分の記録として、出張中の業務内容と時間を日次で記録した「業務記録」を作成し、按分計算の根拠として保管してください。両法人の税務申告で同一支出が重複して損金計上されることを防ぐためにも、この記録は不可欠です。

副業収入の確定申告と旅費経費の関係

副業収入が年間20万円を超える場合、確定申告が必要になります。この際、副業のための出張費は経費として控除できますが、正確に計算することが重要です。

副業が「事業所得」として認められる場合(継続的・反復的な業務)、出張費は事業経費として青色申告または白色申告で控除できます。一方、副業が「雑所得」に分類される場合(2022年の所得税基本通達改正により年間収入300万円以下の副業は原則雑所得)、経費控除は可能ですが、青色申告の特典は使えません。

いずれの場合でも、副業の出張費を経費とするためには次の要件を満たす必要があります。

  • 副業の業務遂行上、直接必要であることが明確であること
  • 本業の会社から受け取った旅費との重複がないこと(重複分は経費にならない)
  • 領収書等の証拠書類が保存されていること
  • 按分計算をした場合は、その根拠と計算過程の記録があること

ケース別:旅費処理の判断フロー

副業・兼業社員が出張した際の旅費処理を判断する際のフローを整理します。

ステップ 確認事項 Yes→ No→
出張は本業の業務のみを目的としているか 本業から全額精算 ②へ
出張は副業の業務のみを目的としているか 副業から全額精算(個人事業→実費経費、法人→旅費規程に従い精算) ③へ
本業・副業の両方の業務目的が混在しているか 按分して各々から精算(業務時間比率等の合理的基準を使用) 目的を再確認
按分後、本業の会社から旅費を受け取るか 本業の旅費規程に従い申請 本業分の旅費請求なし
按分後、副業から旅費を精算するか 副業が法人→旅費規程に従い精算。個人事業→確定申告で経費計上 副業分の精算なし

会社が副業を認める際の旅費規程への追記事項

会社が社員の副業・兼業を認める場合、旅費規程に副業に関する規定を追加することで、トラブルを未然に防ぐことができます。

旅費規程への追記例を示します。

【条文例】第○条(副業・兼業を行う社員の旅費処理)

1. 会社が副業・兼業を承認した社員が、副業・兼業と本業の出張を同一の移動または宿泊で行う場合、旅費は本業と副業・兼業の業務時間の比率その他合理的な基準により按分し、会社への旅費申請は本業に係る部分のみとする。

2. 前項の場合、社員は出張報告書に本業・副業それぞれの業務内容・時間・按分根拠を記載し、提出するものとする。

3. 副業・兼業の業務のみを目的とする出張については、本規程に基づく旅費は支給しない。

4. 社員は、副業・兼業先から旅費を受け取る場合、その旅費と会社への旅費申請が重複しないよう責任を持って管理するものとする。二重受け取りが判明した場合は、速やかに会社へ届け出て返還するものとする。

この条文を設けることで、社員側も会社側も旅費処理のルールが明確になります。副業を認めている会社では、旅費規程のアップデートを検討してください。

TAXAVEでは、出張ごとに「本業比率」「副業比率」を入力して自動按分する機能により、複数法人兼務・副業社員の旅費精算管理も効率化できます。